2011年12月11日(日)『山本精一 NEW ALBUM 発売記念 LIVE』@パルル

ラプソディア』レコ発。発表当初は大阪が「with 須原敬三千住宗臣」、東京が「with 千住宗臣」、そしてここ名古屋が山本さんの完全なソロ。三人、二人、一人、とそれぞれちがった感じになるのかなと思っていたのだけど、後になって東京にも須原さんが追加。こうなってしまうとなんで名古屋だけ…という気持ちにもなったけど、とにかく待ちに待った名古屋ライブ。

山本精一

1. 眼がさめる前に
2. 待ち合わせ
3. 飛ぶひと(山本精一Phew
4. 人形が好きなんだ
5. 虚空の屋根
6. 水
7. 宝石の海
8. Mothlight
9. DISCORD
10. BE
11. ラプソディア
12. ハルモニア


Encore
13. I Believe In You(Neil Young
14. スカンピン(ムーンライダーズ
15. そら(山本精一Phew
16. 空の名前(ya-to-i)


SEが途切れ、照明がゆっくり落ちて、さあいよいよ始まるぞと思いきや、山本さんがまったく動かない。椅子に座って背を向けて、なにやら歌詞カードを精査しているようでした。さっきまでかかってたSEがどんな曲だったか思い出せない。めずらしく帽子をかぶってない山本さんの真っ黒い頭だけが目に付く。なぜか笑えてくるような、緊張感とはちょっとちがった空気。それからずいぶん時間が経った気がします。ようやく振り向いたと思ったら開口一番、「あかん、もんのすごい眠い」。会場中が(笑)っていう感じでした。ともあれ、このくらいが調子いいみたいなことも言っていたので静かに期待。
一曲目、「眼がさめる前に」。眠いと言った後にこの曲とはなんという皮肉(笑)。この曲、イントロだけ聴くとかなりニール・ヤングっぽい。ギターのファズ具合とか。で、歌い始めてガクッときた。イントロのファズに押し流されるように歌が遅れてついてくる。テンポもヨレヨレだ。でも、山本さんの歌のよさはうまいとかへたとか、そういうところにはない。ギターの上をゆっくりと背泳ぎでもするように、ゆらゆらと山本さんの歌声が流れていく。「待ち合わせ」の間奏の太いギターの音。「飛ぶひと」でのまどろむような音色。全部歌のためにあるみたい。そんな中にあって、淡々と爪弾かれる「人形が好きなんだ」にはなんだかクラクラしてしまった。最後のメリークリスマスはいつも、なんとも言えない気持ちになってしまう。わかっていても、心の中のからっぽの部分に飛び込んでくる。この感覚が払拭されることは、この先もたぶんないと思う。
めったに聴けない曲なんでと、ユニオン特典収録の「虚空の屋根」。このあたりから山本さんの目が覚めてきたように思います。始めから眠たかったのかどうか、実際のところはわからないのだけど、今までに比べて歌声に芯が通った気がした。ギターとテンションが近いというか、ギターの音に押されてない印象。最後はエフェクターを通して拡散していくギターの音とコーラスがいっしょになって溶けていって、なんとも清々しい感じでした。聴くたびにいつもちがった心持ちになる「水」、いつもより前向きな気持ちで聴けたのはこの流れのおかげかな。ゆらめくようなディレイがたまらなく気持ちいい。
今日のライブを「ページをめくるようなステージっていうのは本を読んでるような淡々とした感じ」と言う山本さん。そういえばずいぶんとリラックスして聴けていたなと気付く。「淡々としすぎていたら言ってください」と続けていたけど、このままでいいです。「宝石の海」の、きつくファズがかかる間奏部分にも身を任せられるこの安心感。そして、「Mothlight」の長尺なイントロによるソフトなサイケ感。次第に目の前の輪郭がぼやけていくようなこの感覚。もうずっと続けていてほしいと思う。そんなところへの「DISCORD」はもう目が覚めるような思い。時として歌のパートにもファズがかかる強烈な演奏。若干歌がへたっていたような気もするけど、このテンションはちょっと他にない感じ。かっこよかった!
ここで「さすがにトラックがないとできないんで」とリズムトラックを流し始める山本さん。アルバム『ラプソディア』を初めて聴いた時、一曲目のこの「BE」のイントロでこれは名作になると確信した。なんとなく、山本さん一人という時点でやらないだろうと思っていたからうれしい。でもさすがに慣れないスタイルでの演奏のせいか、歌もギターもあっち行ったりこっち行ったりでとっちらかったものに。さすがにこれは…と思ってしまったけど、これはこれでレアなのかもしれない。「ラプソディア」も同様。曲の複雑な構造をあらためて知れたりと、そういう部分ではおもしろさもあったかな。最後はアルバムでもラストを飾る「ハルモニア」。再び弾き語りのスタイルに戻して、歌というものを確かめなおしていくようなゆったりとした曲展開。その展開に合わせて、次第に深くかけられていくディレイ。ゆっくりと沈み込んでいくような感覚に体を支配されてしまった。曲想としてはポップなのに、どこか虚無を感じてしまうこの空気はアルバム全体に漂っている。


いつものように「これで終わりです」と一言告げると、ステージ後ろにある扉の中に身を引く山本さん。少し開いた扉のすき間からは闇しか見えなくて。ちょっと不安な気持ちになった。すぐに出てきてくれたけど、山本さん、あの中でなにをしていたんだろう。


アンコール一曲目はニール・ヤングの「I Believe In You」。歌い始めてすぐに「ちょっと下げさせて」とチューニングのやりなおし。なかなか音が決まらず、結局「もうええわ」と元に戻してしまいました。歌い終わった後、「高いなー、やっぱり」と言っていたのがおもしろかった。実際、かなりつらそうでした(笑)。
パラパラと一枚一枚、入念に歌詞カードを確認しながら、はちみつぱいのエピソードを話し出す山本さん。言葉少なに、といった感じでしたが「羅針盤はそんな影響下にあるバンド」というのはすごく興味深かったです。そして終わってしまうムーンライダーズに一曲捧げますと歌われたのは、「スカンピン」。ムーンライダーズのアルバムは『火の玉ボーイ』しか持ってません。山本さんの歌う「スカンピン」の演奏はさっきのMCと同じく、多くを語りませんでした。そんな控えめな演奏を聴きながら、よく知らないままムーンライダーズは終わっていくんだなと感慨にふけった。ムーンライダーズ。もしかしたら今羅針盤のことを思うのと同じように、ムーンライダーズのことを思う日が来るのかもしれない。し、来ないのかもしれない。よくわからない。いつだって先のことはわからない。
最近わりと多く演奏される気がする「そら」。この曲、すごく好きなんです。雲がかかるようなファズ。溢れ出して、どこまでも広がっていくような音色。この曲には空に向けられた憧憬のような、純粋なものしか感じない。やっぱり今度ある山本精一Phewのライブはなにがなんでも行きたいなと思う。途中、「まちごうたw」と笑いながらほんの一瞬演奏がストップするなんて場面も。続けて、空つながりで「空の名前」。そういえばこの曲はムーンライダーズ岡田徹さんの曲。活動休止と関係あるかはわからないけど、最後に持ってきたのにはやはり意味があるのかもしれません。そうでなくとも、この曲は切石智子さんがモチーフになった特別な曲。「空の名前」を聴くと、いつも目の前がオレンジ色になります。山本さんの「空の名前」は後半音程を上げて歌う時があって、その歌い方がすごくグッときて好きなんだけど、この日はずっと平坦な歌い方。反面、ギターはいつもに増して熱量の込められた演奏。部屋中を覆いつくすようなリヴァーブに包まれて、今回はむしろ、その平坦な歌い方にこそ引き込まれてしまいました。この曲は本当に大切な曲。「夢の半周」と並んで、絶対やってほしい曲のひとつです。


最後に「これで終わりです。これで終わりですが、このままでは終われないので4月7日得三、バンドでリベンジします」とのこと。もうこれは今から予定を空けておく!そういえば最近ちょくちょく演奏されている羅針盤「カラーズ」。この日は聴けるかな。もういっそ聴けなくてもいいかなと思い始めているけど、どうだろう。とにかく、今すぐにでもまた山本さんの歌を聴きたい。