2012年7月8日(日)山本精一 ギターとうた@マタハリ

山本精一

1. Mothright
2. HOWLING SUN(原曲:Procol Harum「Pilgrim's Progress」)
3. 水
4. 時計をとめて(ジャックス)
5. 光の手
6. いつものうた
7. 朝うたう夜のうた
8. 終わりの鈴
9. 待ち合わせ
10. 夢の半周


Encore
11. Don’t Cry No Tears(Neil Young
12. 新曲(今夜も朝まで眠れぬ夢の中〜)
13. 野の人の野のうた(ラブジョイ)


Double Encore
14. せいか


羅針盤の曲を5曲も歌ってくれた。山本さん曰く「羅針盤の曲はずっと封印されてたんですけど、もういいかなと思って」とのこと。でもそれ以上に、「いつものうた」を歌ってくれたことがうれしい。「いつものうた」はディスクユニオンのHPで『ラプソディア』の曲目が発表された当時にはその名前はなくて、そこには代わりに「こくうの屋根」という曲が収録される予定になっていた。(「こくうの屋根」は「虚空の屋根」としてディスクユニオン特典『FOR SONGS』に収録。)レコ発で配布された手書き歌詞カードからも、「いつものうた」だけが抜け落ちている。名古屋ではパルルであったそのレコ発ライブでも、その後に得三であったバンド編成のライブでも、「いつものうた」は歌われなかった。そういう経緯を抜きにしても、「いつものうた」は特別な歌だ。それは初めて『ラプソディア』を聴いた時から今でもずっと。
「いつものうた」には“君”が出てくる。そこにはいない“君”が出てくる。山本精一の歌はいつもひとりだ。君やあいつやみんなが出てきても、どこか他人事のような、一歩外から見ているような虚しさを感じる。虚しさというよりもあきらめにちかいかもしれない。そこにいるのが誰であろうと、もう終わってしまったことのように関心がない。でも、「いつものうた」はちがう。「いつものうた」には確かに“君”がいて、“君”を追い求めている。あきらめていないのかどうかはわからないけど、あきらめきれない感情が見える。確かにそこにあったはずのよろこびや、悲しみや、もうそれに触れないことへの焦燥感。わからなくなってしまった“君”との距離感。行き場のないいろんな気持ちがないまぜになった戸惑いのようなそれは、“そんなことも今は忘れたフリをしている”という歌詞に端的に表れているように思う。歌詞という観点からだけじゃなくて、膨大な活動をこなしてきた山本精一のごく個人的な感情に初めて触れたような気がした。
アルバムの収録曲として直前で差し替えられたのにも、ライブで歌われなかったのにも、意図があったのだと思う。意図もあったけど、迷いもあった。勝手ながらそう想像する。だからこそ、ライブで歌ってくれたことがすごくうれしかったです。山本さんは特になにも触れなかったけど、本当に特別な歌なんだとあらためて実感しました。「いつものうた」、好きです。今までの歌も好きだけど、やっぱり今の歌に興味がある。山本さんのライブに行き続けるのはそういう理由です。


今までの歌があったからこそ「いつものうた」の孤独に惹かれたし、「いつものうた」があるからこそまた今まで歌の孤独が色濃く浮かび上がるんだと思う。山本さんの歌に惹かれるのは、孤独との付き合い方がわからないからかもしれない。