2011年9月22日(木)Pascals Big Pink Tour 2011 vol. 8『馬車』@得三

パスカルズはほんとにすごい。パスカルズの音楽に触れて心動かされない人なんているのかな?それぐらいに思うのに、なにがすごいのか言葉にできないのがくやしいです。楽器の多様さとか人数が多いとか、そういうことも要因の一つだとは思うのだけど、決定的な言葉が見つかりません。
そのパスカルズが念願叶って名古屋でライブ。東京以外ではほとんどライブをしないパスカルズだけに、もうたのしみでしょうがなかったです。しかも会場は得三。あのせまいステージにパスカルズの14人と楽器が乗り切るのかな?とにかく期待だけを胸に、当日得三へ。パスカルズのすごさについてはいまだに言葉がないけど、観たこと聴いたことだけでもつらつらと書いてみる。

パスカルズ

「第一部」
1. ポカポカ
2. のはら
3. てぶくろ
4. かもめ
5. 6月の雨の夜、チルチルミチルは(友部正人
6. マボロシ
7. 空
8. 新曲


「第二部」
1. By the River(Brian Eno?)→「雑草」だったかも?
2. プネウマ
3. ファンファーレブーメラン
4. ドン・ガバチョ
5. だんだん畑
6. 鳥の歌(カタロニア民謡)
7. Taking Dog Fields


Encore
8. Home Coming Song
9. さんぽ


ライブは「ポカポカ」でゆったりとスタート。ああ、やっと名古屋でパスカルズのライブを観れる。そんな実感と共にパスカルズの音楽がゆっくりと得三に満たされていく。序章のような雰囲気も含んだあたたかい演奏。さあ、始まるぞ、始まったぞ、と心を躍らせているところに、「のはら」。音に、空気に、一気に色が付いたように見えた。実際に照明が明るくなったんだったかな?よく覚えてない。目の前にいきなり青い空と青い芝生が広がったのような開放感。トランペット、ヴァイオリン、アコーディオンとメロディが歌い継がれていくところがすごく好きです。風が吹いてくるのを感じる。
次の「てぶくろ」は関島岳郎さんの曲。関島さんの曲はなんだかストーリーが目に見えるようだ。コミカルなストップモーションアニメのようにくるくるとストーリーが回る。リコーダーの音色がとても心地良い。関島さん、良い曲作るよなあ。続く「かもめ」は自由と、自由ゆえの孤独感みたいなものを象徴するような曲。時には困難にぶつかることもあるけど、それを乗り越えていく勇気と強さこそが本当に大切なものなのかもしれない。ラストに向けてテンポとテンションを上げていく演奏はもう圧巻の一言でした。
「6月の雨の夜、チルチルミチルは」は友部正人さんのカヴァー。元々聴いたことある曲だったし、たしかに最近友部さんいいなーとは思っていたけど、心を串刺しにされたような衝撃を受けてしまった。「知らないことでまんまるなのに 知ると欠けてしまうものがある」という歌詞…。芯の通った知久さんの歌声とあかねさんの震えるような歌声、すごくいいな。そして友部さんの「歌」の存在感。ステージの奥の方から友部さんの歌声もいっしょに聴こえてきたような気がしました。
坂本弘道さんのソロ演奏を挟んで、坂本さんの曲「マボロシ」へ。坂本さんの曲からは緊張感と郷愁感を同時に感じる。すごくドラマチックなんだよね。その美しさを体現するような石川浩司さんの鎖の演奏がまたすごく美しくて、見とれて、目が離せなくなってしまった。舞うように、纏うように鎖を操る石川さん。本当に妖精みたいな人だ。ジャラジャラと鳴る鎖の音からは坂本さんのソロ演奏における小豆の音を連想しました。石川さん、次の「そら」ではチープなマシンガンのような音が鳴る光線銃を使用。ロケット・マツさんの演奏するマンドリンの音色との対比がおもしろかったです。他の楽器が演奏を終えるのを待つように、光線銃の音は最後までずっと鳴り響いてました。新曲を最後に第一部は終了。まだあと半分もある。幸せすぎる。このパスカルズの音楽から受け取れる多幸感は一体なんなのだろう?


第二部の最初は「By the River」だったかな。ちょっと自信ない。この曲って原曲はBrian Enoの「By This River」だと思うのだけど、なんでパスカルズだと「By the River」なんだろう?ともあれ、演奏された曲はEnoみたいにちょっとミニマルで美しい曲でした。ロケット・マツさんが眼鏡をかけて、譜面を見ながらキーボードを弾いてた。心が洗われるようなピアノの音色。グッと引き込まれる導入の一曲目を経て繰り広げられる「プネウマ」の即興的な演奏もダイナミズム三割り増しといった感じでたのしかったです。
「ファンファーレブーメラン」の馬車馬のいななきのようなけたたましさはすごく興奮する。途中のジョーズ?みたいなホラーパートもすごくたのしい。パスカルズのライブDVD『さんぽ』のプロモ映像にこの曲が使われているのだけど、そのプロモ映像に出てくる「ビッグでピンク!チープでグレート!」というキャッチコピーはほんとに言いえて妙だなと思います。次の「ドン・ガバチョ」という曲?この曲もすごくたのしい曲で、途中石川さんが客席の中ほどまで来て、自分の体をピコピコハンマーで叩くパフォーマンスしてた。この人のリズム感はほんとにすごいな。ピコピコハンマーでここまで人を沸かせられるのは石川さんくらいじゃないだろうか(笑)。ステージ上のロケット・マツさんとの掛け合いもすごくかわいくてニヤニヤしてしまいました。
そんなたのしいライブが続く中、ここであったロケット・マツさんのMCはすごく印象的で、震災のこと、原発のこと、それ以降の東京のこと、などを話されてました。「汚しちゃったんだよね」という一言が今でも胸に残ってます。パスカルズは多種多様な人が集まってるからパスカルズとしてはなんの声明も出しませんが、というのも真摯でいいなと思いました。ここからごはんの歌、鳥の歌、犬の歌とやって終わります、と言って締めくくり。ごはんの歌、「だんだん畑」は食べ物に気をつけないといけないという先の言葉からつなげられた曲。いつもに増して緊迫感を感じたな。「鳥の歌」はカタロニア民謡だそうで、カタロニアってなんだろうと思って調べてみたらカタルーニャの英語読みがカタロニアなんですね。ちょうどバスク地方カタルーニャ語で歌われたフォークのCDを何枚か買ったところだったので、なんともタイムリーでびっくりしました。この曲はなんと言っても冒頭の石川さんの即興詩が素晴らしかった。「羽根を信じて、飛んでみてほしい」なんてかっこよすぎるよ、石川さん。犬の歌は予想通りの「Taking Dog Fields」。歯切れ良いヴァイオリンの音が気持ちいい。松井亜由美さんに釘付けでした。かと思えば金井太郎さんのかっこいいギターソロ。続いてピアニカにチェロと、見所聴き所満載。中でもバックで流れ続ける原さとしさんの流麗なバンジョーには心奪われてしまった。ラストにふさわしい胸いっぱいの演奏でした。
アンコールは「Home Coming Song」。アンコールをうながす拍手から会場全体の興奮が伝わったのか、それに応えるように、パスカルズもそれはそれはたのしそうな演奏。曲間にあった知久さんのメンバー紹介もノリにノっていて、坂本さんのことを「チェロの危ない方〜」、三木黄太さんのことを「チェロの堅実な方〜」なんて言っていました(笑)。いかにも大団円といった盛り上がりでほんとにたのしかったです。そして最後にもう一曲だけやらせてくださいと「さんぽ」。この曲はオープニングっぽくもあり、エンディングっぽくもある不思議な曲。そのせいかな。まだライブの途中なのに、早くまた観たいなんて思ってしまいました。そう思うと、曲の調子もすこしさびしく響いて聴こえる。やっぱり不思議な曲だな、「さんぽ」。


ほんとにいいライブだったな。今夜のライブは一生忘れない。それくらい素晴らしいライブだったけど、パスカルズはきっと毎度のようにこんなライブを繰り広げてるんだろうなと思うと胸がいっぱいになります。パスカルズのライブは今観ておいた方がいい。ひそかに、胸の中でつぶやいておく。





友部正人パスカルズによる「6月の雨の夜、チルチルミチルは」