片想いのこと

昨日は『東京の演奏MAX』というブログをずっと遡って読んでました。読みながらしみじみと思ったけど、とんちレコードという集団はおもしろい。武蔵野音楽集団と名乗っていたり、メンバー自身が頭脳集団なんてうそぶいてたりもする、おもしろい集団。そしてその呼称にたがわず、ほんとに“集団”という感じだ。いろんなメンバーが入り混じっていろんなバンドをやっている。そしてそれぞれのバンドはメンバーはかぶってるのに、それぞれにちゃんとちがった味がある。これはかなり特殊で、稀有で、おもしろいことなんじゃないだろうか?そのバンドひとつひとつをまた集団と呼んでもいいかもしれない。集団の集団。おそらく今もいろんなことを巻き込みながらふくらんでいくとんちレコード周辺についてはまだまだ知らないことばかりだし、趣味が偏ってる自分としてはたぶんその全部を好きにはなれないと思う。でも、まずひとつ。片想いというバンドに出会えただけでもとんちレコードには感謝したい。それはその集団という特殊な形態のおかげだと思うから。


最初に引っかかったのはあだち麗三郎という人でした。2010年の正月、前野健太が主演する映画『ライブテープ』を観に行った。この映画がそれはもう素晴らしくて、「最近の映画、つまらん」と思ってた胸中に風穴を開けてもらった気がします。それだけにその出演者全員が気になったけど、その中でも特に気を引いたのが劇中でサックスを吹いていたあだち麗三郎。(ちなみにドラムスのPOP鈴木はsakanaでの演奏で言わずもがな、二胡吉田悠樹からはNRQやその様々なセッションワークを知ることになる。)調べてみると、歌を歌っている。ドラムを叩いている。なんかおもしろそうな人だ。早速買ってみた『風のうたが聴こえるかい?』は本当に素敵なアルバムでした。「あの日あの夏」は名曲…。
それからしばらくして、2010年も終わりに差しかかった11月。あだち麗三郎が新しいアルバム『FlowSongs』を持って名古屋に来るという。片想いというバンドのドラムで。そうだ、この人ドラムもやってる人だった。すっかり歌の人というイメージ。もうずいぶん前のことだし、何も記録に残してないからはっきり覚えてないけど、正確には(だから正確じゃないが)ドラムをやってる、じゃなくてまたドラムを始めた、というような話をどこかで見たように記憶している。そしてそれは片想いというバンドの歌心に心動かされて、といった感じだったと思う。そんな話を聞けば気になるに決まってるし、なにより『FlowSongs』を買いたかった。でも、そのライブは結局行かなかった。行かなかった理由はよく覚えてないけど、寒かったからとかそんなもんだったと思う。どうせ『FlowSongs』は通販で買えるし、みたいな。知らないものに対する好奇心が薄いのでいつもそんな感じ。天邪鬼ですいません。そして機会を失うとやる気も失せる。『FlowSongs』も結局通販しなかった。片想いという名前は、なんとなく胸につっかえたままになった。
そんなある日、YouTubeに上がった片想い「踊る理由」を発見する。たしかTwitter九龍ジョーがリンク付きでつぶやいていたのがきっかけだったと思う。(そういえば九龍ジョーも映画『ライブテープ』のスタッフだ。)観終わって、率直に「なんてたのしそうなバンドなんだ!」と思った。そうか、これが片想い。ここから、長い長い片想いの始まり。「踊る理由」は本当に何度も何度もくりかえし観たし、偶然か必然か、この時期になってとんちレコード周辺のいろんなことがちらほらと目の前を通り過ぎていく。でも、そんなのわかった気になってただけだったと後になってから実感することになる。
それから一年以上の間を空けることに。その間、とんち関連ならずともMC.sirafu関連で言えばceroが二回とうつくしきひかりが名古屋に来ていたけど、どれも事情があって行けなかった。あだち麗三郎クワルテットは行けた。よかった。そしてたまっていくもやもやの中、ついに片想い来名の報を聞く。2011年2月12日、金山ブラジルコーヒー。あだち麗三郎のことをいろいろと教えてくれた友だちからだった。やった!ようやく片想いのライブを観れる!しかしやっぱりそこは天邪鬼。ライブ当日は初めて片想いを観ることになるはずだったあの日みたいに寒くて、おまけにふさぎこむようなことばかりの毎日で、すっかり観たい!という気持ちは奪われていたのでした。ライブを予約してくれた兄の「行けばたのしいって」という言葉も信じられないくらいに。今思うとなんであんなに落ちていたのかよくわからないけど、とにかく落ちていた。それでも行こうかなと思えたのは友だちに「行こうよ」と言ってもらえたからで、それだけで、というのもやっぱりよくわからない。よくわからないけど、友だちってやっぱり大事だなと思った。兄にはすまんと思った。ともあれ、紆余曲折あっての片想い。結局気分は乗らないままで、大丈夫かと自分に問いかけたくなる。でもそんな心配は不要だった。たのしかった。もうとにかくたのしかった。ここまで長い前置きをしておいて、とも思うけど、ただほんとにそれだけ。こんなはずじゃなかったのに!というくやしさとうれしさが入り混じった気持ちの目の前に、誰よりもたのしそうな片想いの面々。巻き込まれたな、と思った。会場を丸ごと飲んでしまうようなライブのテンションはもちろん、このライブに辿り着くまでのことも。いろいろあって遠回りしたけど、今この瞬間、心からたのしんでいられるのは今まで経験してきたことすべての結晶だ。それは自分自身の実感だけでなく、片想いが見せてくれた景色にも助けられたと思う。「スモーキーオモロ」の歌詞を借りれば、“言葉のみにつのる景色”。もうひとつ「踊れ!洗濯機」の歌詞を借りれば、“笑い、涙、詰め込んで”。そうやって片想いは目の前のいろんなことを巻き込んで回っていくんだと思う。それはきっととんちレコードと共に。


冒頭で触れた『東京の演奏MAX』の「片想インザハウス」は途中でも書いた、初めて片想いを観るはずだったハポンでのライブについてのエントリー。その中の一節に妙に納得してしまったので勝手ながら引用させていただきます。
片想いの楽曲は素晴らしい。けれど誰が演奏してもいいわけじゃない。
彼らがやるから片想いなんだ。
音楽は人だ。
それが彼らに会いにいく、ということなのです。

http://ensou2.blogspot.jp/2010/11/blog-post_11.html
一部分だけ抜き出して言うのもなんだけど、ほんとにそう思う。


結局、初めて片想いを観たのはほんの先月のことだからそれ以前のことは正直よく知りません。でも、今の片想いのライブはとにかく観ておいた方がいいと思う。「今の」というのには別になにか他意があるわけじゃなくて、今の、この八人の片想いのライブがほんとに最高だから。片想いのHPにある「about us」(←おもしろい!)を見る限り、紆余曲折あって集まった八人。観ないと損するよ。
片想い - official web site「about us」
http://kataomoi.main.jp/about_us.html