2012年1月29日(日)Phew + 山本精一 + taiqui@京都磔磔

Phew + 山本精一 + taiqui

【第一部】
1. オーブル街(フォーク・クルセダーズ
2. Danny Boy(アイルランド民謡)
3. 家(水銀ヒステリア)
4. どこかで(永六輔 / 中村八大)
5. Csndy Says(Velvet Underground


第一部は山本さんとPhewさんのデュオ。まずはフォークルの「オーブル街」からのスタートでした。しかしPhewさんの歌声が遠い…。山本さんのギターも心なしか、どこか心ここにあらずといった趣き。二曲目の「Danny Boy」になっても二人の距離はさらに開いていくように感じます。でもそれは合っていないという意味ではなくて、むしろ見えないからこそ相手を求めて交信している様な不思議な距離感でした。三曲目の「家」は水銀ヒステリアの曲。ラブジョイでbikkeさんが歌う「家」がすごく好きで、イントロからもう感極まってしって気が気ではなかったです。Phewさんが“窓の灯かりがゆれてました”と歌った直後にキッチンの方からカチャリと食器がこすれる音が聴こえてきて、存在しないはずの“家”に少しだけ意識が飛ばされたような気がした。はたと気づくとさっきまで希薄に感じていたPhewさんの歌声はいつの間にか力強さを帯びて目の前にいて、山本さんのギターもそのすぐ傍らにありました。「どこかで」を歌うPhewさんの姿は存在感を取り戻したように神々しく、青いスポットライトに照らされて薄く発光していた。「Candy Says」はPhewさんがメインパート。一瞬コーラスを付けることをためらったように見えた山本さんですが、結果、コーラスを付けることでギターにも情感がのったような感じがしてすごくよかったです。
「Candy Says」を歌い終えると二人とも素っ気なく退場。特に「家」以降が素晴らしかったですが、まだ『幸福のすみか』の曲を演っていないだけに第二部への期待が高まります。


【第二部】
1. まさおの夢
2. バケツの歌
3. そら
4. 飛ぶひと
5. 鼻
6. ロボット
7. 幸福のすみか


第二部。まずは山本さんとtaiquiさん二人での演奏。taiquiさんのドラムは初めてでしたがシンプルなようでひねりがきいていて、パキっとした音がかっこよかったです。決して受けに徹しすぎないドラミングは山本さんの歌のユニットとして新鮮でした。あんなにかっしりと歌われる「まさおの夢」は初めて聴いたかもしれません。ただ歌に意識がいきすぎていたのか、「バケツの歌」はアルバムのような淡々とした辛さは少し薄かった気もします。Phewのコーラスがなかったのも大きいかもしれませんが。「そら」はエフェクターが控えめになった分、歌が立っていた印象。やはり間奏のファズがすごくいい。ほんとに雲がかかるようで。ちょうど帽子が影になって、山本さんの表情が見えなかった。
「飛ぶひと」からはPhewさんも参加。すっくと起立して歌うPhewさん。歌い終えると、フッと力が抜けたように見えた。最後に歌われる“銀の巨人”という歌詞は何度聴いても頭に残る。なにか力を奪われてしまうような不思議な言葉だ。「鼻」でのPhewさんはなんと肩を揺らして、その場でステップまで踏んでいた。「鼻」はなにもない歌だと思う。あの歌にはほんとになにもない。そんな「鼻」を一定のリズムを刻みながら歌うPhewさんが、なんというか、少し怖かった。目を背けたくなった。だから、その間はずっと鼻だけを見ていた。山本さんのギターはなにかを引き受けるように、少しずつ熱を帯びていったような気がする。その異変は次の「ロボット」で。いつの間にかヒートアップしきった山本さんがアンプのつまみをぐいと捻り、痙攣したようにギターを掻き鳴らす。「ロボット」だけになにかの故障を模しているのかも?と一瞬思ったけど、どうもそういうわけでもなさそう。チューニングまで狂ったのか、チューニングをしながら壊れ続ける山本さんにたじたじのtaiquiさん。Phewさんはちらっと一瞥すると、何事もなかったかのように歌う。そうだ。はじめ(昔)は音楽が好きだったのだ、となんとなく思った。圧巻だったのは「幸福のすみか」。トノフォンの時とちがってライブハウスという限られた空間だからというのもあると思いますが、その場のすべてを限定して閉じ込めてしまうようなアシッドな空気感。何者もここから逃れられない。そんな気がした。あの濃密な空間にはたしかになにかが潜んでいたと思う。


Encore
8. O Caroline(Matching Mole)
9. 第三ROCK(想い出波止場
10. 新曲(労働するのはよいことですか)
11. 新曲(ネコのうた?インド猫、ワン猫、山猫ドラ猫化け猫)


ここからは一度全員が引っ込んでの再スタートなので一応アンコール扱いですが、第三部といってもいい充実した内容でした。まずはMatching Moleの「O Caroline」。以前山本さんのソロで聴いた時は日本語詞になっていましたが、今回は英語詞で。低音で歌うPhewさんと淡いコーラスを付ける山本さんの歌声との対比がとてもきれいで、この形なら英語の方が語感に広がりがあってよかったのでは。でも、とつとつと、フラットに、舌足らずな感じで歌われる日本語詞のバージョンもまた聴きたい。
「第三ROCK」はライブで聴くのはたぶん三回目。三回目の「第三ROCK」。想い出波止場の曲はどこかつかみどころがない。そこにPhewさんが加わるとなおさら。でもテンションだけはとにかく高くて、taiquiさんのドラムも山本さんに引っ張られるように音を連ねていく。ストレートなのか渦巻いているのか。とにかくすべてを巻き込んでいくロードローラーのような強引さ。もうとにかく「かっこいい!」の一言でした。“なにものでもない俺と、どこへでもない場所へ”!!
次は初めて聴く曲で、後半はPhewさんと山本さんが交互に“労働するのはいいことですか!?”(そう聴こえました)とひたすら繰り返す。その間のギターもがんがんにうねっていて、そこにはカタルシスもクソもなく、ただフラストレーションだけがぐわんぐわんに積み重ねられていきました。最後は山本さんの合図でビシッと締め。疑問などはなにも残らないスカッとする終幕。次の曲も初めて聴く曲。この曲、イントロから前半にかけてのギターリフがあがた森魚の「サブマリン」そっくりでした。「サブマリン」はコーラスにPhewさんが参加、後から知ったのですが、ドラムはtaiquiさんだそうです。やはりなにか因果関係があるのでしょうか。アレンジ自体も「サブマリン」のような隙間のある演奏。後半は“インド猫、ワン猫、ドラ猫山猫化け猫”と、これまたひたすら繰り返し。新曲に共通して言えることですが、強烈なインパクトを持った繰り返しの歌詞がそのままポップな手触りを持つというなんともキャッチーな展開。これはクセになりそう。大阪、東京でも同じ曲を演っていたようなので是非録音してほしいところです。


アンコールの時に後方の階段を見ていて気づいたのですがこのライブ、大友良英さんも観に来ていたようです。まさか大友さんも加わってちょっとしたNOVO TONO?「夢の半周」??などと期待してしまいましたが、さすがにそれは贅沢というもの。十分すぎるほど満足の一夜でした。でも、NOVO TONOはいつかやってほしいなと思います。
終演後はかえるさんこと細馬宏通さんも見かけたし、後から知ったところによるとbikkeさんや「家」の作者の加藤わこさん、Sachiko Mさんなんかもいらしてた様子。満員だった観客席も含め、やはり多くの人にとって特別なライブだったのではないでしょうか。




あがた森魚「サブマリン」