2011年3月27日(日)『球面三角〜早川義夫・山本精一・JOJO広重〜』@今池得三

JOJO広重(with b:村井英晃、ds:尾谷直子)

1. 上を向いて歩こう坂本九
2. オレトオマエ!
3. 今日の日はさようなら(森山良子)
4. ささやかないで
5. メシ喰うな!(INU
6. 神を探しに


ベースの村井さん、ドラムの尾谷さんを含む三人がステージ上でセッティング。JOJOさん、機材トラブルかな?その様子を心ここにあらずといった心境で見守る。今夜は一体どんなライブになるのだろう。そんなところへ突如、「スタンッ!」と尾谷さんのスネア一閃。会場全体が一瞬「ビクッ」となったようだった。
長い間隔を置いて鳴らされる不穏な響きに、時が止まったように空気が凍りつく。その緊縛した空気をゆっくりと解きほぐすように、JOJOさんのギターが空間を埋め尽くしていった。重たくも温かくて、力強いというよりは力を分け与えるような、やさしい音色。どこか懐かしくも感じるその音色が、聴き覚えのあるメロディを紡ぎ出す。「上を向いて歩こう」。始まる前に「どんなライブになるのだろう」とぼんやり思い描いていたものが、目の前ではっきりと形を持ったような気がした。「オレトオマエ!」や「ささやかないで」といったJOJOさんの殺し文句のような曲の間に「今日の日はさようなら」が挟み込まれていたのもおもしろい。歌は、その時々に込められた想いで表情が変わる。それぞれ、誰に向けられた曲だったのだろう。あるいは不特定多数の誰かだろうか。顔は見えなくても、その想いだけははっきりと伝わってきました。誰よりも人間くさいところがJOJOさんの魅力だと思う。

山本精一(with b:須原敬三

1. 待ち合わせ
2. バケツの歌
3. 宝石の海
4. 飛ぶひと
5. 水
6. そら
7. 空の名前
8. ふたつの木のうた


山本さんのライブの前には必ずトイレを済ませる。もうこれは自分にとって儀式のようなものだ。トイレから戻るとちょうど始まるところで、ギリギリセーフと胸を撫で下ろす。それでもトイレに行く人が後を絶たなかったので気になってはいたのだけど…。
山本さんの歌とギターはいつもよくわからない。よくわからないまま、よくわからない部分に響いてくる。得体が知れないのだ。歌は歌い手が込める想いだけでなく、聞き手の想いにも大きく反映されるものだと思う。でも山本さんの歌に関してはその辺もよくわからない。ただ、心が大きく滲む。滲んでよくわからなくなる。この日の山本さんはベースの須原さんとのデュオ。須原さんのベースはとてもやわらかい感触がするのです。主張はせず、かといって、ただついていくだけでもない。山本さんの歌とギターにそっと寄り添うようなベースだ。須原さんがいっしょの時はおぼろげながらも、山本さんの歌に輪郭が浮かび上がるような気がします。ギターのアレンジがいつになく美しく、叙情的な響きを持っていたのも須原さんのおかげなのかな。特に「水」の間奏部分は圧巻でした。まどろむように拡散していく音の粒子の中で、うっすらと芯を持ったメロディが滲むようにゆらめいていた。
「水」が終わったところで閑話休題。「今の内にトイレ、いいですか?」と確認が入る。一通り確認したところで、「いいですね?行った奴、殺すからな。」と山本さん…(笑)そこからは初めて生で聴く「そら」に感激し、「空の名前」に感極まり、「ふたつの木のうた」を一人で歌う山本さんをじっと見入っていた。一気に通り抜けて、“野原の骨”というフレーズだけが耳に残った。

早川義夫(with acc:熊坂るつこ)

1. サルビアの花
2. 僕らはひとり(Hi Posi)
3. 批評家は何を生み出しているのでしょうか
4. 君がいない
5. 父さんへの手紙
6. I LOVE HONZI
7. 音楽
8. 身体と歌だけの関係(Hi Posi)
9. いつか


ステージ袖から颯爽と登場した早川さん、照明に真っ赤なシャツが映える。そういえばJOJOさんも山本さんも、演奏中はだいぶ照明が抑えられていた。山本さんの時はなんだか水の底にいるみたいだったな。照明の中ピアノにそっと手を置いた早川さんは、なぜだかどうしようもなく「ひとり」なんだという感じがした。
あ、「サルビアの花」。と思う間もなく、全身を打ち抜かれました。頭のてっぺんから爪先まで、早川さんの歌声が通り抜けていった。本当にすごい歌声だ。まっすぐに届けられるその歌声は空気さえも介さず、直接身体に響いてくるようだった。まるで早川さん自身を追体験しているような気持ちになりました。そしてその傍らに、と言っても少し離れてですが、ちょこんと座ってアコーディオンを弾く熊坂るつこさん。彼女の演奏がまたすごかった。もしかしたら、この日一番の衝撃かもしれません。早川さんが「体中が音楽」と紹介してましたが、まさに、という感じ。小さな体を振り絞るようにして、早川さんの歌に新たな息吹とうねりを注ぎ込んでいました。死んでしまった猫のことを歌う「君がいない」は熊坂さんの作詞だそうです。熊坂さんの歌声、アコーディオンと同じ音がした。
しかし、HONZIの名前を耳にするといまだに動揺してしまう…。「I LOVE HONZI」、そして「いつか」。いろんなことが頭の中をぐるぐると巡っていく。全部、演奏後に見えた早川さんの「よしお」Tシャツに持ってかれてしまいましたが…(笑)。
早川さんは全身を使って歌い、演奏をする。熊坂さんもだ。それは決してパフォーマンスなんかではなくて、きっとそうすることでしか、すべてをさらけ出しながらでしか表現ができない人なんじゃないかと思いました。もしかしたら、それが「身体と歌だけの関係」ということなのかな?なんて思ったみたり。

早川義夫山本精一JOJO広重(with b:村井英晃、ds:尾谷直子、acc:熊坂るつこ)

1. この世で一番キレイなもの
2. いい娘だね
3. ラヴ・ジェネレーション


Encore(b:村井英晃→須原敬三
4. からっぽの世界


最後は三人そろってのセッション。三人が歌い継いでいくスタイルでしたが、それぞれのソロとちがってみなさんどこかうれしそう。特にJOJOさんのテンションの高さにはさすがの山本さんもタジタジのご様子(笑)その多幸感は会場にも伝播してきて、まわりを見渡さずともお客さんの笑顔が思い浮かびました。(「この世で一番キレイなもの」を除いて)ジャックスの曲なのに、ですよ。一体なんなのだろう、この感覚は。この光景は。
アンコールは村井さんに代わって須原さんのベース。なんだか草野球みたいな軽いノリがよい。とかなんとか言いつつ、その内情はもうすごいことになってます。せっかくのジャックス。せっかくのこのメンバー。できればこの編成での「マリアンヌ」も聴いてみたかったな。願えば、いつか叶うだろうか。