2010年07月06日(日)キセルツアー2010 “凧”@名古屋クラブクアトロ

チケットを買ってあるとか予約してあるとか、そうでなくとも予定に入れてあるライブはもちろん楽しみにしている。楽しみにしてはいるんだけど、行く直前になるとやる気がなくなる。それはライブ自体がどうこうじゃなくて、ライブハウスに行くのが嫌だからだ。たとえそこに友だちや知り合いがいたとしても、ライブハウスに入ると基本一人という感じがして、居心地が悪い。居場所が見つからない。そういう気持ちが一時やわらいでいた時期もあったけど、最近はまた顕著だ。どうしたもんかね。この日もなんだかそわそわしてしまって、ひたすらSEのヨラテンゴを聴きながら開演を待った。
灯りが消えると、そういう気持ちもふっと消える。明るい時は気付かなかったけど、ステージ上にはいくつも豆電球が吊るされていた。今日はどんなライブになるんだろう?これから始まるライブへの期待と高揚感に、やっとさっきまでの居心地の悪さから開放される。ああ、そうか。俺はキセルのライブを観にきたんだった。

キセル

0. (インスト)
1. うぶごえ
2. 朝顔
3. サマタイム
4. 島
5. 火の鳥
6. 虹を見た
7. とおい友達
8. ひみつ
9. 夜の名前
10. 雪に消える
11. 星のない夜に
12. 夕凪
13. はなむけ
14. 夏が来る
15. ギンヤンマ
16. いつまでも


encore
17. ビューティフルデイ
18. ベガ


double encore
19. 鮪に鰯


オープニングSEとも一曲目とも区別のつかない、最初に演奏されたインスト曲にぐいっと引き寄せられた。心も体もぐいっと、キセルの方へ。引き寄せられてストンと落っこちた先は、いつものキセルのライブだった。キセルのライブほど気を張らなくていいライブもない。ある種アンビエントのように心地良いキセルの世界に浸っていると、アルバム『凪』でも一曲目である「うぶごえ」が聴こえてきた。
二曲目は「朝顔」。このまま新作の流れで進行してくのかな?と思いきや三曲目は「サマタイム」。ずいぶん久しぶりに聴くような気もするけど、もしかしたらこの前の夏も聴いたかも。そうやって夏が来るたびに、そうやって思うのかもしれません。だから来年の夏も、キセルを聴いていたいなと思いました。「サマタイム」はキーボードがおもちゃみたいな音色で、ちょっとかわいい感じのアレンジ。エマーソン北村さんはキーボードを弾く手つきもそうだけど、ほんとに猫みたいな人だ。飄々としてて、段取り通りかはどうかは知らないけどキーボードを弾いたり弾かなかったり。まるで気分次第みたいに見える。それは即興とはまたちがって、キセルの音楽に遊び心を加える。「島」でもアナログなシンセ音がとぼけた口笛みたいでおかしかったです。今のキセルに、エマーソンなしなんて考えられないな。
続いて忘れられたような曲を、ってことで「火の鳥」と「虹を見た」。「火の鳥」はベースとドラムの絡み方が絶妙で、なんともファンキーな趣き。前から北山ゆう子さんのドラムはその噛み合わなさみたいなものがキセルの音楽とすごく噛み合ってると思ってたんだけど、ここにきてベースの友晴さんとのコンビネーションがグッと濃密になった気がします。なんかあったか?あの二人。「虹を見た」は古びたハイブリッド感がネオアコ的。キセルは昔の曲をやっても、ちゃんとアレンジを変えてくるからおもしろい。
ここでチューニングを兼ねたMC。お兄ちゃん、ラフトレードというレーベルが好きなんですという流れで、兄「ヤング・マーブル・ジャイアンツというバンドがいまして、永遠の憧れですわ。」、弟「なりたいですねー。」、兄「いやそれはなれんやろ。なれるわけないやろ。」と。いつものことながら、友晴さんががんばって盛り上げようとしてるのにそれを冷たく突き刺すお兄ちゃんがおもしろすぎる(笑)続けて演奏した「とおい友達」はお兄ちゃんのギターがもろヤング・マーブル・ジャイアンツ的な響きを見せるところがあって、これまたニヤリとしてしまいました。そんなお兄ちゃんがヤング・マーブル・ジャイアンツのモクサム兄弟の内、兄のスチュアートがギターということを知らなかったのもツボ。キセルはモクスハム兄弟と言ってたけど、俺的にはモクサム兄弟。
それから「ひみつ」、「夜の名前」と、わりと聞き流す。「夜の名前」だけアルバムの流れからはずれてるけど、やっぱり特別な曲なのかな。でもこのライブでもアルバムでも、ちょっと物足りない感がした。ずいぶん前に新曲として披露された時の、あの感動が忘れられないからかな。
めずらしく友晴さんがギターを持ってると思ったら、なんと「雪に消える」でした。で、ここでもおとぼけMC。弟「いやあ、弾けないのにすいません。」、兄「いや弾けなきゃ困るやろ。」って、まあそれはそうだけど(笑)ここではいつのまにかエマさんの姿が見えなくなってて。兄弟二人によるギターとヴォーカルのハーモニーが素敵でした。静かな曲にお兄ちゃんのギターソロが映える。それから北山さんのヴォーカルには驚いた。まさか歌うとは思ってなかったので。そしてやはりというか、なんとなく友晴さんと北山さんのやりとりにエロさを感じる、気になる。「星のない夜は」北山さんも退場して、本当に兄弟二人で演奏。しかも友晴さんは足踏みのみ。ステージ上の演奏者も段々と減っていって、ほんとに消え入りそうなほど美しかった。それも、演奏後のMCで台無しに…。弟「タップ、でいいんですかね?今のは。」、兄「いやタップちゃうやろ、タップの人に失礼やろそれは。」。あいかわらずお兄ちゃん厳しい(笑)
「夜の名前」とおなじ頃から演奏されてる「夕凪」。この曲は「夜の名前」とは逆に、どんどん好きになってます。なんとなく、「君の犬」に続く曲って感じがするな。さよならを乗り越えて前へ、という感じがそうさせるのかな。その感じはさらに、「はなむけ」へと続いていく。通して鳴っていたエマさんのピアノが、前へ前と気持ちを向ける。
「夏が来る」→「ギンヤンマ」の流れはこのライブのハイライト。特に「ギンヤンマ」は圧巻でした。バンドバージョンの「ギンヤンマ」は、今の四人編成のキセルにおける最大の収穫だと思う。元々壮大な曲ではあったけど、その向こうに見える景色に、さらに奥行きが広がったような気がします。北山さんのドラムはスネアのタイミングがほんとに絶妙だと思う。ドタバタしてるようで、グングン引っぱられていく。不揃いな行進曲みたいだ。
最後の「いつまでも」はまるでエピローグのように、少し離れたところで鳴っていました。なんとなく、明日の仕事のことなんか考えたりして。こうやってなんとなく続いていくんだな、とか思ったりして。


アンコールの「ビューティフルデイ」も「ベガ」素晴らしかったのだけど、ずっと立ちっ放しだったから腰が痛くなってしまった。あ、でも「ベガ」の時はそんなことも忘れてたかな。「ベガ」には、いろんな想いがあるのです。そういえば、もうすぐ七夕。しかし、さすがにダブルアンコールはもういいかなと思ってしまいました。もう「ベガ」で終わりでいいじゃんと。でもだからと言って、途中で退場できない貧乏性の俺です。「鮪に鰯」、好きなんだけどね。いっそ「系図」までやってくれたら気持ちも盛り返したかも。


最後にもいっこMC話。お兄ちゃんが今回のアルバムの制作期間や評判などについて話し始めて、友晴さんもそれにのっかってきました。しばらく話し続けてるとお兄ちゃん、「その話、家でしよっか。」。…やっぱりキセルが大好きだ!